神様の資格 ~常波としず~

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「しかく?」 食べる手を休め、しずが首を傾げる。 「それがあれば、おれは神やって、胸張って名乗れるんやて」  ただ、何もなく資格をくれてやるというわけではなく、常波自ら相手方に出向き、資格を授かるためにいろいろと手続きを踏まねばならぬらしい。 「それを持ってねえとどうなんの?」 「モグリの神ってことやろ」 「やだぁ」  しずはケラケラと笑った。 「じゃあ常波も資格取りに行くんね?」 「おれは行かん」  しずが目を丸くする。 「今までそんなものがなくても神やったんやぞ。今さら駄目とか、そんな無茶な話あらへん」  あまりに急なお達しもだが、天照大御神の御使いの物言いはたいそう横柄で、それがまた常波の気持ちを逆なでしたのである。 「……とはいえ……天照さんのお考えやからな」  誰に聞かれるはずもないが、常波はつい声をひそめてしまう。  数多の神を束ねる、大御神の決めたことである。あまり意地を張っていると、そのうちちゃんと資格を持った神に、ここを追い出されてしまうかもしれない。 「ええやん、常波はちゃんと神様やって。今までのことぜんぶ無しにして、これからは資格がねえと神って名乗ったらあかんて、そんな乱暴な話もないわさ。天照さんがあかんって言うても、あたしが常波は立派なこの海の神様やって、ちゃんと皆に言ってあげるから」 「しずに言われてもなあ……」  常波は苦笑し、桑の実をかじった。  神でないしずに、常波のこの悩ましさはきっと伝わらない。言わぬままにしておけばよかっただろうかと、書状をたたみ、社の隅に放った。  それきり、神の資格から興味はそれ、常波がどこかの海に棲むという巨大貝と大真珠の話をしてやれば、しずは山で子連れ狸を見かけたとうれしそうに話す。  四方山話に花を咲かせているうちに、雨はずいぶんと小降りになったようだ。さぁさぁと木々の葉を叩く雨の音に耳を傾けながら、常波はしずに訊いた。 「もうすぐ祭やな。今年はしずんところが名代やろ? 準備は進んどるか?」  文月の十五日、この村では海神への感謝を奉げる祭が行われる。  その日は漁に出ず、船はみな陸に上げてしまう。  村人たちは真新しい小舟を一艘用意し、供物を山盛り乗せたそれを男衆がかついでこの社まで持ってくる。そしてその供え物を前にし、村の十四までの娘たちが神楽舞を奉納するのだ。  つまり、しずの神楽舞を見るのも今年が最後になるはずだった。  と、しずがうろたえたように視線を泳がせ、うつむいた。  あのね、あのねと、何度も繰り返し、草の匂いのする指をこすり合わせる。 「あたし、祭には出られんの」  常波が驚きに目を見開くと、もっともっとうつむいてしまう。 「あたしねぇ、奉公に出るんやわ」
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