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最終話
良ちゃんの実家で木枠に入った写真を見た。
あの笑顔だった...あの時の笑顔...
私は何となくもうここへは来ることはないような気がした。
お昼を誘われたが丁寧に辞退した。
これから行かなければならない所があるからだ。
お父さんに駅まで送ってもらい別れた。
無口な人だけど誠実さと優しさが滲み出ている人だった。
新宿に着き乗り換えて渋谷迄行き小さな花束を買いあの場所へ向かった。
雨...
また降り出した。
私は横断歩道脇の電柱に花束を置いて手を合わせた。
雨は強くなり私の額に髪の毛が張り付いた。
良ちゃんと私が倒れていた...
最後に2人だけでお話をしたあの場所を見つめて...
降りしきる雨と私の涙は混ざり合って流れて消えた。
そして立ち上がり駅の方へ歩き出した。
後ろから呼ぶ声が聞こえた気がした。
「陽菜...
陽菜...」
でも...
私は振り向かない。
決して後ろは見ない。
雨に打たれながらこれからも歩いて行こうと決めたのだ。
やまない雨はないのだから...私は呪文のように呟いて歩いた。
駅に着くまで...
いつの間にか誰かが差し伸べてくれていた傘に気付かず歩いていた。
おわり
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