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今夜は久しぶりに良ちゃんとデートの日。 生憎の雨だけど全然気にしない。 どこかにお出かけするわけじゃないし、お気に入りのレストランでディナーだなんて本当に素敵でしょ。 それに久しぶりに会えるし...。 会社でちょっとトラブって時間ギリギリになっちゃった。 前髪のカールが湿気で気に入らないけどもう行かなくちゃ。 会社を出ると雨粒がチラチラと光って行き交う車が跳ね上げる飛沫(しぶき)はネオンの光を散らし、そして集まって虹色の水面(みなも)が出来た。 私は九州の田舎で生まれ育った。 特別に都会に憧れた訳でもなく田舎でも十分満足した生活を送っていた。 なぜだか中学、高校と成績が良く担任が東京の大学を受験してみたらと強く押してくれた。しかも日本でも一番の国立大学だ。 私は出来るだけ九州から出たくなかったし家にも学費や仕送りの負担をかけたくなかった。 でも担任は熱心に勧めてくれたし親や兄も賛成してくれた。 都会は光の街だ。 行き交う人や人波や言葉もトーンやテンションが高くて光っていた。 最初の頃は今まで経験した事のない生活でウキウキとして何でもキラキラしていたのだけれど、1年を過ぎる頃には故郷のあの村のうるさいカエルの鳴き声や満天の星ぼしを背に静かに音を立てる流れ星... 自然がキラキラと光り輝いていた。 故郷の全てが愛おしく感じて泣きべそをかいて過ごした。 そうやって私は4年間アルバイトと学業を本分として都会に住み強くなったのかもしれない。 色恋はしないと決めていた訳ではないのだけれども不思議なほどそんな機会は訪れなかった。そのお陰で成績は学年で常に3番以内には入っていた。 得意な英語とドイツ語を活かし貿易会社か省庁か悩んだが外務省に入省した。 すると驚いた事に恋人が出来た。 私は経済局、彼は3歳年上で国際協力局にいて海外出張が多かった。 そして久しぶりに今夜会える筈だった。
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