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私は時間を気にしながら傘に当たる雨音を聞きながら小走りで歩道を急いだ。
赤信号の横断歩道で信号待ちの長さを初めて感じた。
渡ればすぐに着く。気持ちは高鳴った。
良ちゃんの顔が浮かんだ。
信号は緑色の歩く人の形に変わった。
私は横断歩道を2、3歩踏み出した所でいきなり綺麗なネオンや雨粒がくるくると回りだして身体がふわっと浮いた様に感じた。
気付くと横断歩道を渡りきった所で歩行者が騒ぎ始めていた。
私も恐る恐る振り向き近付くと男性が道路の真ん中で倒れていた。
「誰か救急車!」
「交通整理!車を止めろ!」
「動かすな!頭から出血してる!」
「二人いるぞ!」
「女性を抱きしめてる!」
罵声と叫び声が入り混じって混乱していた。
「2人? 女性?」
私の位置からは男性しか見えなかったので少しだけ移動した。
男性の顔が見えた。
良ちゃん...?
まさか...彼のはずはない。
私は血の気が引くのを感じながらフラフラ近づいた。
「近づかないで! 危ないよ! 見ないほうがいい!」
こだまのように遠くで頭の中に響いた。
雨粒に打たれた白い顔はまるで人形のように美しく自分の時間だけを生きているようだった。頭の所から黒く見える血液が溢れて降りしきる雨に混ざりながら少しずつ彼の命を奪っている様に見えた。
「ダメ...良ちゃん。
良ちゃんを奪わないで...お願い。」
私は降りしきる雨に祈りながら、道路に溢れ出る血液を両手でかき集めた。
すると肩を叩かれたような気がして振り向くと、
そこには良ちゃんがニコニコしながら立っていた。
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