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「ごめんなさいね...忙しいのに。 時間がかかってビックリしたでしょ。 今日はありがとうね...リョウのために...」 「いえ、初めてお会いします。 こちらこそお忙しい時にお邪魔して... わたし...」 「ひなさん...ね。 リョウからは聞いてましたよ。 滅多に連絡よこさなかったけど、たまにあるとあなたの事で終始してたの。 わたしね...あなたに会うの初めてじゃないのよ。 以前あの子のマンションに寄ったの。そしたら玄関から2人で出て来るのを見かけたのよ。お邪魔かなと思って声はかけなかったけどね。 身体はもういいの? 大変だったしね... じゃあ、あの子のトコに行きましょう。」 私は余程 悲壮で泣きそうな顔をしていて お母さんはそれを感じて私に話をさせなかったのだと思った。 車は田園の道をリンゴの木に囲まれながら風を切って走った。 山道に入るとすぐ駐車場があり山肌にお寺とお墓が並んでいるのが見えた。 お線香の香りが漂う中、2人無言で階段を登りお寺に挨拶して良ちゃんが待つお墓へ向かった。 お寺から小さな坂道を登り、お母さんが立ち止まった。 「リョウ...今日はここにいるの? それとも家? きっとここね...最愛の人が来てくれたんだもんね。 ...私...ちょっと住職に会ってくるから... 久しぶりに積もる話でも...」 お母さんはハンカチで目元を押さえながらお寺の方へ行った。 私はロウソクに火を灯し線香の先に火を移した。 「良...ちゃん...私...」 言葉より先に涙が溢れて声にならなかった。 灰色の冷たい墓石を指先で撫でながら泣くしかなかった。 遠くに続く山並みは背後の紺碧の空に浮かんでいるように見える。 風が頬を撫でながら通り過ぎた時、良ちゃんが言った言葉を運んで来た。 「もう僕の事は忘れて生きるんだよ。 でもいつかきっと君を見つけるから... 強く生きて幸せになるんだ。」
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