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「ねえ私の忠告、聞いてたんでしょ?
あんたと志麻を遠ざけるための苦肉の策だったのに、ノコノコ楽屋まで会いにきやがってどういうつもりなの?
しかもこの私を差し置いて、俺が志麻を守りたいだ?半端な気持ちで言ってるんだったらぶん殴るわよ。」
初めて対面した、志麻のマネージャーの築島 香は大きな瞳でキ、と俺を睨みながらそう捲し立てた。
あの後、比佐が何度も電話をして漸く連絡がついた築島さんと直接会うことになったわけだが。
恐らく俺が志麻の周りを彷徨いているのはばれているから、それなりに覚悟をして行ったつもりだが、想像以上の剣幕だった。
「……スイさん。」
先ほどまで、あんたと呼んでいたくせに急にそう俺を呼ぶ主に目をやると、神妙な面持ちでこちらを真っ直ぐに見つめていた。
「…志麻は、最近とても楽しそうに演技をするようになりました。
貴方のお陰だと、私も思います。ありがとうございます。」
深く綺麗なお辞儀に、俺は思わず言葉が出なかった。
体勢を戻した彼女は、ハキハキとした声で続ける。
「スイさんを巻き込んでいるうちの事務所の問題を、何とかしなければと思っています。
ご迷惑をおかけしている貴方に怒られるのは当然だと思いますが、貴方自身が直接動く理由はなんですか。
先程も言った通り、生半可な"守りたい"なら、必要ありません。」
逸らさないその視線が、俺を試しているのだとすぐに分かった。
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