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カメラマンをリネンプロの社長が仕掛けるタイミングは、築島さんによって完璧に把握出来るようになった。
その日さえ注意すれば、写真を撮られる恐れもない。
いつまでも、記事になることは無い。
"……あんた、私にあんな風に言っておいて、迷ってるんじゃないでしょうね。"
「……」
"いつまでもこんなイタチごっこはやってられないからって、あんたが言い出したのよ。"
「…分かってる。」
電話越しに届く築島さんの言葉はいつも直球で、胸がより抉られる。俺の周りの女は、葉子さんと言い、なんでこんな強いんだよ。
"留学。決めたんでしょ。"
志麻に出会う前から、その話は俺の耳に届いていた。
国内では、俺の演技を認めてくれる人が増えた。凄いと、流石だと、そう言われる度に有り難かったけれど。
現状維持は、安心感と焦燥感を同時に連れてくる。
俺は、ここで止まっていいのか。
そういう中での留学は勿論チャンスだと自分自身でも分かっていたが、演技を始めた時と同じ、不安も再び顔を出していた。
見透かしたように比佐は「お前は思ったより臆病だからな」と笑ったが、本当にその通りだ。
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