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駐車場で志麻を待っている間も、俺の中には葛藤しか無かった。
"待ち合わせして、話をしてるところを張っているカメラマンに撮らせる。"
単純な作戦だが、カメラマンの位置を既に把握している比佐も待機してくれている。ああ見えてスポーツマンの比佐は、恐らく造作なくカメラマンを取り押さえてくれる筈だ。
記事になって、初めて自分の事務所で"そういう"思惑があったと知って、志麻は、どんな気持ちになるのか。
胸に裂けそうな痛みが走る自分をなんとか鼓舞している最中に現れた志麻は、今にも泣きそうな顔をしていた。
「み、どり。留学、するの…?」
なんで、もう志麻が知ってるんだ。
留学するという話は、今からするつもりだったのに。
さすがに誤魔化せないと、肯定した俺の前で志麻は必死に自分の目を擦る。
涙を、絶対に俺に見せようとしない。
志麻、その涙ってどういう意味?
俺は、自惚れてもいいの?
だけど、今はそれを問いかけるわけにはいかない。
どうしようもなく気持ちが抑えられなかった俺は、彼女を引き寄せて強く抱き締めた。
こんな風にきちんと触れた事はなかった。
いつも、誤魔化すようなスキンシップで距離をなんとか置いて。
一度触れてしまえば、もう、きっと止められないと分かっていたからだ。
ぎゅう、と、俺の背中にまわる手に、何故か俺まで泣きそうになった。
ああ、もう。
「(離したく、ねーな。)」
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