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そうして、無事に俺と志麻は、ツーショット写真を撮られた。
比佐に取り押さえられたカメラマンは、顔面蒼白のまま、うちの社長とリネンプロの常務に連行されるように出版社へと向かったようだ。
恐らく、これで記事が出回る事はないだろうし出版社も大人しくなるはずだ。
俺は、このまま志麻に会わずにアメリカへ旅立とうとしていたが。
築島さんが、「可哀想なあんたに5分だけ時間をあげるわ。」と言った。
待ち合わせ場所は、念には念を、ということもあってうちの社長宅のガレージになった。
コンコンと、車のドアを開けるとすぐに降りてきた築島さんは「お待たせしました」と丁寧な口調で俺にそう言うのと裏腹に、俺の足を思い切り踏んでいた。多分、志麻は気づいていない。
昨日、勝手に志麻を抱き締めたところを撮られたのが気にくわないらしい。知るかよそんなこと。
そうして、車内で1日ぶりに対面した志麻は、泣きはらした赤い目で俺を見つめていた。
____ごめん、志麻。
でも、今から暫く傍に居られない俺には、なんの資格も、無いから。
きっと自分を責めている彼女は、俺に謝罪をしようとした。
それを俺はすかさず制する。
謝る必要なんて、何一つ無い。
「____売名行為、しとく?」
軽い、いつもの調子で、そう言う。
俺の予想外の言葉に驚いたようにこちらを見た志麻は、綺麗な瞳を少しだけ揺らして。
「……くたばれ。冗談じゃないわ。」
いつもの調子で、そう返してきた。
俺の予想も遥かに超えてくる志麻の言葉に思わず微笑む。
言い訳も一切せず、自分は自分でやっていく、
そういう姿勢を強がりながらも見せる彼女。
___だから、好きになったんだ。
「……またね、志麻。」
頬に少しばかり触れてしまったのは、許して欲しい。
キメの細かい透明な肌の熱を、本当はずっと感じていたかった。
でも、俺たちは、それぞれに進むべき道があるから。
離れても、彼女が彼女らしくこの世界で生きていけるように。
それだけを、祈っている。
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