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海外での3年間は、レッスン漬けであっという間に過ぎていった。
だけど、決して平気だったわけではない。
レベルの高い本場の舞台に落ち込むことも勿論あって、反対に、うまくできたときは代えがたい嬉しさがあって。
そういうことを、一番に話したい彼女が傍に居ないのは、何年経とうと慣れるものではなかったし、慣れたくもなかった。
志麻が朝ドラのヒロインに抜擢されたのも、CMや映画でも確実に実力を発揮していく様も、どこにいてもすぐに情報が入る現代社会では、むしろリアルタイムで知っていた程だ。
そんな日々の中、仕事明けに開いたスマホがショートメールの通知を知らせた。
”翠、至急折り返して。”
危惧していた事態が、動き始めていた。
昴と志麻のドラマが次のクールで決まった。
まだ公表はされていない中で、放送局の関係者から、リネンプロの会長を見かけたと聞いた。
葉子さんは冷静に、そう事実を述べた。
"3年前、傍にいられないからって泣きながら手を離したあんたは、さて、今回はどうするの?”
「泣いてねーよ、勝手に捏造しないでくれる?」
同じようなものでしょ、と笑った葉子さんは随分楽しそうだ。
”だって、こんなのもう私に脚本にしろって言ってるようなものじゃない?いつか書くわ。”
勘弁してくれ、とあきれた声で囁きながら、俺の心は勿論決まっていた。
俺は、既に養成スクールは修了していたためすぐに帰国の準備に入る傍で、帰国を知らせた築島さん達と連携しながら今後の動き方を決めていった。
よくよく調べていけば、やはり会長はテレビ局の上層部と通じていたようで、築島さんの怒りは頂点に達していた。
今回もやはり、掴むなら物的証拠だという単純作戦。
後輩の昴にも応援を頼んだが、どうしてあの女にそこまでこだわるのかと、最後まで不服そうだった。
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