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再び、寝室に戻ると、相も変わらず眠り続ける男。
よく考えたらシングルベッドでこんなに占領して寝られたら私は寝るところが無いじゃないか。
はあ、と1つ溜息を漏らした私は、ベッドの近くのサイドテーブルにそっと水の入ったグラスを置く。
そのまましゃがんで、翠の寝顔を見つめた。
"かわいいですね。"
なんであんなこと、言ってしまったのか。
しかも人前で。
思い出して再び顔が火照る感覚に、私は頭を振る。
…一旦寝よう。
このままでは、何かまたしでかすかもしれないと急に怖くなった私は、そう決意して立ち上がる。
最後に、自然と視線をベッドの住人に向けると、綺麗なアッシュの髪が顔にかかっているのに気づく。
避けてやろうと腰を屈めてそっと手を伸ばした時。
「俺、かわいいの?」
「____っ、」
その手を掴む奴と急に視線が絡んで、私は大袈裟にびくりと肩を揺らしてしまった。
「な、なんで、」
いつの間にかうつ伏せになっていた翠は、枕に顔を埋めるようにして、片目だけこちらに向けていた。
表情がきちんと見えない筈なのに、きっと今その顔にからかいを含んだ笑みを浮かべていることが分かった。腹立つ。
「聞こえちゃったんだよねえ。」
語尾を伸ばしてそういう翠は、確かに少ししんどそうではあるがそこまでお酒が入っているようには見えない。
「よ、酔ってたんじゃないの。」
ドキドキと、胸の鼓動の速さを悟られないようになるべく冷静を装う。
「んー、比佐に連れられてる時はちょっと本当にやばいと思ったんだけど。
今はだいぶマシになったかな。」
ふわりと笑ってそう言う翠。
「そうか俺、可愛さまであるのか、大変だなあ」なんてのらりくらりぬかしてくれる奴に怒りのボルテージが上がる。
それなのに、目くじらを立てている私に気づいても尚、クスクスと笑って私の髪を撫でる翠に脱力してしまった。
「そもそも、なんでうちに来たの…?」
そこまで体調悪くないなら自分の家に帰りなさいよ。
訝しげな私の視線に気づいた翠は、そのままの態勢で深めの長息を漏らす。
そして。
「そもそも、なんで帰る家が違うのかって思わない?」
「、」
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