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驚いたように目を見開いた私に気づいた翠は、急に起き上がって私のこともぐい、とベッドに引き揚げる。
両膝をたてて座る翠の間に入り込んで、向き合うような態勢が瞬時につくられて、カッと顔が熱くなるのが分かった。
照明を薄暗くしていて良かったと、自身のはやる鼓動を感じながら思う。
「……志麻。俺の母親の名前覚えてる?」
「は?」
急に何を言い出すのかと思えば。
以前、葉子さんの車の中で頼んでも無いのに披露してくれたトリビアを思い出す。
「よ、よもぎさんでしょ?」
「…そう。」
「それが、どうしたの。」
「…………よもぎさんに、会ってみる?」
「…え、」
眼前の男は、どこかいつもよりか細い声で、視線も合わせずそう聞いてくる。
自分より身長も高くて、今握られている手も一回り大きい筈なのになんだか本当に、今日の翠は幼い子供みたいだ。
流れが唐突で不可思議な会話が続いて、私には意図が全く読めない。
「…翠、よく分からない。」
混乱の中、戸惑った声でそう言うと、翠はう、と少し苦しそうに声を出す。
それから細く触り心地の良さそうな髪を少し乱して、「あー…、だよな」と小さく呟いた。
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