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「…翠。」
「なに。」
「私、家具も、服も、少ないから、すぐに荷造りできると思う。」
「……え、」
「あと、よもぎさんにも、ちゃんと挨拶させて。
もちろんお父さんにもだけど。」
そう伝えて笑うと、翠は黙ったまま何度か瞬きをする。
それから泣きそうな顔で綺麗に笑って、至近距離にいた私をそのままぎゅう、と抱きしめた。
「……今日はもう流石に言うのやめようって思ってたんだけど、駄目だった、俺、志麻を見てると歯止め効かなくなるから。」
甘く掠れた声が優しく私の鼓膜を揺らした。
翠の声も好きだなあなんて思ってしまう私は、相当重症だ。
くすりと笑ってその背中に腕を回そうとすると、
「____っ、」
急にぐるりと視界が変わる感覚に思わず目を瞑る。
一瞬背中に優しい衝撃があって、その後、恐る恐る目を開けると目の前には、先程まで、弱気に言葉を紡いでいた筈の男。
視線を絡ませた翠の瞳には、餌を窺う獣のような鋭い光が宿っていて。
「歯止め効かないって言っただろ。」
なんて悪戯な笑みに言葉を乗せる奴は、もういつもの調子だ。
やっぱり、さっきの寝顔で垣間見た幼い子供みたいな表情は、かわいかった。
降ってくる荒々しいキスに応えながらそんなことを思った私は、そのまま静寂の闇の中で翠に身を委ねた。
【後日談02】
折角ですから、
惚気ついでに、朝まで愛を語りましょうか
fin.
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