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結局、翠がいつのまに予約していたのかは分からないけれど既に発券されていたチケットに驚いた時にはもう映画館に到着していて。
あれよあれよという間にスクリーンへと入ってしまえば、前から気になっていたその映画の世界にすぐに引き込まれて。
上映が終わったら、次もいつの間に予約していたのか分からない個室のイタリアンに連れてこられた。
目の前で綺麗な所作で料理に手をつける翠に、私の顔はどんどん険しくなる。
「…そんな険しい顔で食べる料理だっけこれ?」
「翠、ごめん。」
「は?」
「私完全に忘れてしまってる、みたい。」
「何を?」
「…え、何を?」
きょとん、と目を丸くしている翠は本当に私の発言が分かっていないようで、それにこちらも戸惑う。
「きょ、今日、何かの記念日なんじゃないの…?」
急にデートなんて言い出して、映画も、ディナーも、全て用意されていて、何のお祝い事があるのかって必死に考えたけど全く検討がつかない。
というか私は結婚記念日と翠の誕生日くらいしか分からない。この男意外とそういうの気にするタイプだったのか知らなかった、と私はより一層焦っていたのだけど。
すると翠は何かを察したように、そういうこと、と言ってクスクスと笑い出す。
「何。」
「あのねえ志麻。こんなの、いつでもやりますけど。」
「…?」
「特別な日じゃなくても、志麻にはいつでもやりますって言ってんの。」
「、」
「大体、映画とご飯くらいでそんな風に言われるのもちょっと情けない。」
何言ってんの。
「…充分だってば。」
視線を合わせずそう言うと、やっぱり翠は笑った。
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