1355人が本棚に入れています
本棚に追加
「悩んでいいし、とことん向き合えばいいし。
でもお馬鹿な志麻に一個教えておこうと思って。」
「…なんだって?」
お馬鹿って言ったか今。
「"いつでもどこでも人気俳優のスイとデートできますよ券"、持ってるって知ってた?」
「、」
頬杖をついて、やけに妖艶な微笑みでこちらを見つめる男の顔がなんだか少し滲んで見える。
「……知らなかった。」
「ばーか。」
また馬鹿って言われた。
私は慌てて目に浮かぶ水溜りを拭って、翠、と頼りなく呼ぶ。
「………帰ったら、台本、付き合ってくれる?」
翠だって、忙しいんだから。私の仕事の悩みは出来る限り自分で解決しなければと、思っていた。
どこかでもしかしたら今更そんな悩み、"恥ずかしい"とさえ、思っていたのかもしれない。
だけど、「頑張れ」じゃなくて、「悩んで当たり前だ」と当然のように言ってくれたその言葉が、私の心を軽くしてくれたから。
「…いくらでも。」
嬉しそうに笑ってそう返事してくれる翠に、自分の表情が解れていくのが分かる。
最初のコメントを投稿しよう!