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星がちらほらと無造作に踊る、深夜の1時を過ぎた頃。
シンと静まり返った家に、かちゃり、玄関のドアの解錠音が聞こえた。
「……おかえり。」
靴を脱ぐ男の背中にそう声をかけると、驚いたような瞳と視線が絡まった。
「ただいま。ごめん、起こした?」
この男は、深夜の撮影の後は私に気を遣って、電気も付けずに音を立てぬように帰ってくる。
「……起きてたから、大丈夫。」
玄関でしゃがむ男の隣に私も同じようにしゃがむ。
そっか、そう言って微笑む男の横顔に少し疲れが見えた。
「…志麻?」
何も言わずに、ただ隣にいるだけの私は完全に不自然だ。
どうしよう、なんか無駄に緊張してきた。
___だけど、今日くらい頑張らなければ。
「……あげる。」
「え?」
膝を立てるように座っていた翠のすぐ傍に、シンプルな青色の包装紙で包まれたある物を置く。
「………誕生日、おめでと。
お、おやすみ。」
言いながら顔が真っ赤になる自分に気が付いてまた熱が上がっていく。この辛いスパイラルからもう早く逃げたいと、私はすたすたリビングへ続く廊下を歩いていく。
これだけを伝えるのに、こんな時間と労力がかかる私なんなの?
自己嫌悪にも陥りそうな私は、
「っ、」
「…志麻。ちょっと待って。」
後ろから抱きしめてくるこの男にその歩みをすぐ阻まれてしまう。
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