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「気分とか服装で、使い分けできたら、良いかなと思って。」
未だに後ろから抱きしめられる構図の私は聞こえるか聞こえないかくらいの細い声でそう伝える。
耳のすぐ近くで艶やかに聞こえた吐息が、いとも簡単に脈を速くしていく。
いつまでこうなんだともがくけど、翠は力を全く緩めてくれない。
それどころか、ぎゅう、と抱きしめて
「嬉しすぎる。」
そう笑う。
その瞬間に、私は言い様の無い胸に広がる温かさを嫌というほど知ってしまった。
「……ほんと、?」
腕の力が緩んだ瞬間に、男へ向き直って問いかけたその言葉は不安そのものだった。
その声に瞳をパチクリと瞬いた翠は、彫刻のように整った目元をゆるゆると解す。
「…愛しい奥さんがずっと悩んだ末に買ってくれたものだよ?嬉しいに決まってるじゃん。」
「、」
確かにずっと悩んでいたけど、なんで知っているの。
驚く私に男は軽い調子で
「先週くらいから熱視線で凄い見られてたから。
積極的だなって思ってた。」
なんて綺麗に微笑んで言ってくれる。
「…セクハラで訴える。」
「我慢してた俺は功労賞ものだと思うんだけど?」
そんな賞あってたまるか、と睨むけど男はとにかく嬉しそうで、力が空気のように抜けていく。
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