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「よくそんなに悪どいこと思いつくよね。尊敬するな。」
神原社長は穏やかにそう呟いてコーヒーを口にした。やはり目が全然笑ってない。
「……翠、いろいろと迷惑をかけてごめん。」
「志麻が謝ること、1つも無いだろ。」
「それでも、結果として私は何もできなかった。
こんなにたくさんの人が動いて、守ってくれていたのに。
私は、ただ仕事してただけで、」
「ひたすらに仕事バカなところが、誰かの気持ちを支えたりするよ。」
翠の細い指が、私の髪を撫でた。
「俺は、どこかで留学を迷ってた気持ちもあったから。なんだかんだ言って、不安もあったりしたのかな。
でも、熱心に俺の演技の話聞いて、真っ直ぐに向き合う仕事バカな志麻見てたら、ちょっと気持ちが楽になったというか。
すごいクサイ表現だけど、忘れてた気持ち思い出させてくれた、みたいな。
ああ、俺も、結局この仕事が好きなんだよなって思った。
…自分が、何もできない人間みたいに言うな馬鹿。」
「、」
ばかばか言わないでよって思うのに。
翠の言葉は、私の心をいとも簡単に軽く解いていく。
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