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"…ちょっと昔のあんたに似てたのよ。"
「…昔?」
"進みたいのに足踏みしてる感じがね。"
「……」
映画監督として活躍する彼女の影響で、俺はこの世界に入ったと言っても過言ではない。
あんた私に似て顔が良いんだからと、子役エキストラなどにもよく駆り出されていた。
初めは遊び感覚で参加していたが、大人達がスイッチを切り変えて違う人物を演じるその姿を間近でずっと見ていたら、興味だって湧いてくるのは自然の摂理だろう。
高校に入り、ファッション誌にモデルとしてよく載っていた頃、葉子さんは俺に言った。
「……あんた、怖いんでしょ。」
「何が?」
「ちゃんと勝負するのが。演技やってみたくてたまらないくせに。」
「……」
にやにやと含んだ笑いを浮かべる彼女に、俺は反論できなかった。
だって、図星だったから。
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