【side:翠】マスカレードのカノジョ

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◻︎ 「よく田端さんに怒られないね」 ドアを開けた志麻は、 俺の顔を見て深い溜息を1つ。 「普段の素行が良いからね」と言えば、良くそんなこと真顔で言えたねと、鼻で軽く笑った。 仮面はがれすぎだろ。 初めて会った日から、そろそろ数ヶ月。 俺は頻繁に志麻の楽屋を訪れるようになっていた。 それこそ初めの頃は、再び仮面を被ってしまった志麻に綺麗な笑みでかわされ続けていたのだが、ある日いつもの様に訪れた俺を、志麻は眉間に皺を寄せて難しい顔で出迎えた。 "あの演技、何。どうしたらあんな風に演じられるの。" 悔しそうにそう言って、早く教えろと言わんばかりに強い瞳で言葉を促す志麻を見て、「本当に芝居が好きなんだ」と俺はそこで初めて知った。 ___そこから、だった。 自己流で身につけた部分も多いし、それが全て合っているわけではないと伝えても、志麻はうるさいと言って(どんな返事だ)、まるで研修中の新入社員のように必死にメモを取っていた。 新しい発見があれば普段はシャープな目を丸くして驚いたような表情にもなるし、嬉しいことがあれば少しだけ口元が柔らかく緩む。 分かりづらい彼女の、感情の機微が見える度に胸が焦がれるようなそういう感覚が順調に積もっていく自分に、俺は焦り始めていた。
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