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「あれ?」
エレベーターを降りると誰もいなかった。
きょろきょろしていると、「あの……」と声が聞こえた。
女の子は集合ポストの脇に隠れていたらしい、白いモコモコがそろりと顔を出す。
「大丈夫? 男の人はまだいるの?」
「分かりません、怖くて確認できなくて」
女の子はふるふると首を振った。
「そうだよね。ここで待ってて、私が外を見てくるから」
みさをはエントランスを出て周辺をぐるっと見回したが、人影は見えなかった。
「今は誰もいないみたいだけど……」
「そうですか。すいません」
みさをが報告すると、女の子は消え入りそうな声で謝って頭を下げた。
そう言われてもすぐに出ていくのは怖いのだろう。女の子はどうしようか逡巡している様子。
「あなたはキキ……じゃなくって、阿倍野くんの友達なんだよね?」
「友達というか、大学の後輩なんです」
みさをとしても、キキの知り合いをこのまま帰して何かあったら困る。
「とりあえずうちに上がって待ってなよ。もうすぐ阿倍野くんも帰ってくると思うし」と提案した。
「でも……。いいんですか? ご迷惑じゃ……」
「いいよ、いいよ。困った時はお互い様、って言うでしょ」
若い女の子への接し方が分からず、つい世話焼きおばさんのような台詞を吐いてしまった。
「ありがとうございます」
女の子はようやく微かな笑顔を見せた。
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