豪雨と一番星

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 なんだか思いの外疲れてしまってさっさと寝てしまった翌日。  メイクのためにおざなりに化粧水をつけながら鏡に映る自分の顔を見る。 「ーーーーー 志賀さんって、爽やかイケメンよね」  その隣に手抜きもいいとこの私が座っていたのか。  どうせあの豪雨では周りからは見えなかっただろうけど。  最初こそ緊張していたものの、道中は楽しかった。  話術が巧みで話し方もうまいし、声が柔らかくて聞きやすい。  営業職は向いているだろう。 「志賀、哲弥さん……か」  呟いて、数少ないメイク道具を見つめる。  リップだけでももう少し明るい色にしようか。  長年同じ色のリップをじっと見つめて、今日の帰りに化粧品売り場に寄ろうと決めた。  そのために、今日は絶対に定時で帰る。  さすがの3魔女も連日仕事を頼んでくることはない。  そもそもイベントが控えているような時期ならまだしも、そこまで忙しくもないはずなのだから。  17時の終業のチャイムと共にパソコンをシャットダウンし、引き出しからバッグを取り出して「お先に失礼します」と告げながらフロアを出る。  パソコンのシャットダウンをクリックしてから1分に満たないうちにエレベーターに乗り込んだ。  目指すはデパートのコスメブランドが入るフロア。  どれがいいのかと目移りしながら、あちらこちらの口紅を見て回る。  すると、一人の美容部員の女性に声をかけられた。 「口紅をお探しですか」 「あ、はい」 「どんなお色を?」 「そう、ですね……今のより、少し明るい感じがいいなと思っていて」 「失礼します」  彼女は私の唇を見て、一つ頷くとディスプレイされた中から一本取り出した。 「こちらのお色はいかがでしょう」 「濃すぎませんか」 「つけてみると印象が変わりますよ」  言われて試してみると、確かに思ったほど濃くはない。  唇だけ見れば思っていたような色だったのだけれど。 「私の肌と色が合わないみたい……」  残念に思いながら口紅を返すけれど、彼女は受け取らずじっと私の顔を見ている。 「あの……」 「お客様、大変失礼なことを言うようですが、お肌はお手入れをしっかりすればそれだけでかなり明るい印象になりますよ」 「え?」 「今は洗顔やメイク前に化粧水をつけるだけ、とかではありませんか」  図星だ。  あまりあれこれつけすぎるとすぐに吹き出物が出てしまって、なかなか合う商品がない、と言い訳して手っ取り早く済ませてしまっている。 「お肌は正しくお手入れをするとちゃんと応えてくれるんですよ」  そう言って正しい肌のお手入れ方法を教えてもらった私は、握りしめていた口紅を買い、家に帰って早速実践した。 「まずは……メイクはしっかり落とす」  化粧品売り場の女性に言われた内容を思い出しながら、ひとつひとつ丁寧にやっていく。  全部終わって、ほう、と一息。 「……きちんとお手入れするって、結構大変なんだ……」  今までサボっていたツケだ。  この日から、朝晩のスキンケアは私の日課となった。
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