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頭上からくくっと笑う声がする。
(こんな時まで人をからかって!!)
こんなに切ない気持ちにまでなって南雲に謝った私のことを、こんなふうにからかうなんて。
怒りを通り越してなんだか悲しくなってきて、瞼にじわりと熱を感じた。
彼の胸を両手で押し返そうとした、その時。
「そもそもこんなに分かりやすくアピってるっていうのに―――彼氏がいないとか言うし」
「な、なぐ、」
「俺はちゃんと『デート』だって言っただろ?」
「な、」
「終いにゃ、『私のことキレイだって言ってくれる男の人だっている』、だって?おまえ、俺のこと煽ってんの?」
「なっ、」
「………まあそれがおまえらしいと言えば、それまでか」
南雲が頷きながら呟く。まるで自分に言い聞かせるみたいに。
それから、ふぅっと長い息をつく。そして一呼吸置くと今までにない真剣な声で言った。
「俺は、ずっとキレイだと思ってた」
聞こえた言葉に、両目を見張った。
「今頃それに気付いたやつらに渡すつもりはないんだよ」
「なっ、」
「おまえ、さっきから『な、』しかいってないぞ?いくらナナだからって」
くくくっと笑う声が、耳元をくすぐり、吐息に身を竦ませる。
「な、なぐ、も―――」
やっと口に出来た名前。すると、いつもより少しだけ低く、掠れた声が囁いた。
「奈菜。俺と付き合って」
心臓が痛いほど跳ね上がった。
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