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店を出て夜道を歩く。店から私の家まで十五分ほど。いつもなら途切れることなくぽんぽんと続く会話も今はない。
もう何度か彼に送ってもらっているこの道。しんと静まりかえった住宅地に、私たちの足音だけが響く。
あれからずっと南雲がおかしい。
私が何を言っても「ああ」とか「まあな」とか、はっきり言って生返事。何度か理由を聞いてみたけれど、「別になんでもない」という言葉だけ。最後の方は私も黙って出て来た料理を食べるだけだった。
(なにやっちゃったんだろう、私……)
うっかり者の私はすぐに失敗する。
きっと気付かないうちに南雲を怒らせるようなことを言ったに違いない。口は災いの元とはよく言ったものだ。
(これじゃ南雲に八兵衛って言われても文句言えないじゃない………)
今までどんな言い合いをしても、こんなふうに気まずくなることなんてなかったのに―――
ずんと、お腹の底が重くなった。つられるように足取りも重くなる。
少し前を歩く広い背中。街灯の明かりに照らされた彼の姿が、だんだんぼんやりと滲んでくる。
あと少しで家、というところで私の足は動かなくなった。
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