【2:その勇者、難度Sを望む】

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【2:その勇者、難度Sを望む】

 ギルドに着くと、受付カウンターにちょうどタウロスが居た。恰幅が良く、人の良さそうな髭面のギルドマスターだ。 「おうアッシュ。どうした? 仕事をしたいのか?」 「ああ、まあね」 「ちょうどお前さんにぴったりのものがあるぞ。屋敷の庭掃除だ。半日で2千ギル。どうだ?」 「いや、今日はそうじゃなくて、この人の仕事を……」  俺の後ろから、兜を被ったままのネーチャーが声を出した。 「マスター。今このギルドで一番報酬が高いのは、どんな依頼だ?」 「それは……数日前に、この町のすぐ近くに突如現れたダンジョンの探索だな。ボス敵の正体を突き止めて5万ギル。さらに討伐したら、討伐ボーナスが出る」 「ボス敵の予想は?」  タウロスは資料を見ながら答える。 「事前調査によると、ダンジョンから漏れ出る癪気(しゃっき)の強さからして、少なくともS難度の魔物だ」 「討伐ボーナスは?」 「100万ギルだ」 「よし乗った! それにする」 「はぁっ? おいおい全身鎧の剣士さんよ。そんなちっこい身体で、何を言ってるんだ? S難度だぞ?」 「わかってる」  ネーチャーがマスターに答える横から、誰か別の男の声が響いた。 「おいアッシュじゃねぇか。なにやってんだ? Bランクのお前がS難度の依頼を受けるって?」  声をかけてきたのは、幼馴染で同い年のブルだ。幼馴染と言っても、別に仲良しではない。身体がデカくて力も強く、昔から俺をバカにして、見下す。  コイツは17歳で既にSランクに到達した戦士。地元の期待は高いけど、性格は嫌なヤツだ。 「おお、アッシュ久しぶりだな。何やってんだ?」  横から口を出してきたのは、これも同い年のスネア。コイツもブルと同じく、既にSランクを取得した剣士だ。 「聞けよスネア。コイツ、BランクのくせにS難度の依頼を受けるんだって」 「はぁっ? アッシュ、お前は相変わらずバカだな。やめとけ。死ぬぞ」  誰がバカだ? コイツも嫌味なやつで腹が立つ。  スネアはいつもブルと一緒にパーティーを組んでる。しかし同じパーティと言えば…… 「あらアッシュ。こんなとこで何やってんの? アンタん()の宿屋が潰れちゃった?」  やっぱり居やがった。ブルをリーダーとして、いつも三人でパーティーを組んでるもう一人。ブルの彼女、赤毛の黒魔導士、ジョアンヌ。   「うるせぇ。潰れてなんかない。ちょっと理由(わけ)があって、仕事を探しに来たんだ」 「ふーん……あんまりチョロチョロしないでね。弱いくせに目障りだから」  ──なんだとっ?  ジョアンヌは美人だけど、性格は悪い。目つきも悪い。こんなヤツは嫌いだ。  まあブルと付き合うようなヤツだからな。 「なあ、アッシュ。そのS難度の依頼は、既に俺たちが引き受けたんだ。だからお前は引っ込んどけよ」  ブルは右手の親指を俺に向けて突き立て、クルッと下に向けた。『お前はクビだ』というジェスチャー。くっそっ! ムカつくヤツだ。
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