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今はまだ本当のことが言えないけれど、だけどこの場を収めるために多少の嘘を混ぜ込んだ本心を彼女に伝えなければいけない。
俺の顔を訝しげに見つけている彼女へと口を開いた。
「ストレスとか現実逃避とか……そういう部分がないといったら嘘になるかもしれない」
「!」
「実は俺……幼い頃に両親を亡くしていて親戚の家で育ったんだ。だから本当の意味での家族の団らんってよく分からなくて」
「……」
「君の家は典型的なアットホームって感じでしょう? そんな温かな家庭で育った君とそうでない俺が一緒に住んで大丈夫なのかなって」
「……」
「ちょっとしたプレッシャーみたいな? そういうの、感じちゃって──」
「大丈夫ですよ」
「え」
「私と一緒に住むことに対してプレッシャーなんて感じないでください」
「……」
「あなたはあなたらしく生活してください。その中で私がダメだと感じたところがあればちゃんと言ってあげますから」
「……あ……うん」
「では話の続きをしましょうか。夕食は出来る方がするということでその辺は連絡をきちんとやり取りすることで──」
「……」
驚いた。てっきり俺の見え透いた誤魔化しに彼女は(そんな殊勝な態度も私に取り入る演技なんでしょう?)なんて達観した考えを抱くと思っていたが……
ゴメンナサイ
ゴメンナサイ
ゴメンナサイ
(なんで何度も謝ってんの)
彼女が心の中で何度も繰り返す謝罪の言葉が何故か哀しみを纏って俺の中に流れ込んで来た。
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