flavorsour 第三章

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「おはよう」 「ひっ!」 突然耳元で囁かれた声に素っ頓狂な声が出てしまった。 「ひっ、って酷いなぁ。人を化け物か幽霊みたいに」 「な……な、なっ」 私の後ろから声を掛けたのは勿論同居人の彼だ。 (な、何なのよ、この人!) 本当にびっくりした。至極真面目なことを考えていたからこそ余計に驚いた。 「あ、スッピンだ」 「!!」 驚き過ぎて咄嗟に言葉が出て来なかった私に彼はにこにこしながら言った。その言葉にハッとなり思わず両手で顔を隠した。 「見ないでください!」 「え、なんで」 「それがマナーというものでしょう?!」 「マナーって……何、スッピンを見たらマナー違反になるの? そんなの俺、今までに一度も──」 「あなたが今まで付き合って来た女性はどうか知りませんが私にとってはマナー違反になるんです!」 「……」 「……」 (……あれ?) 不意に気が付いた。私は今、ごく自然に『あなたが今まで付き合って来た女性は』なんて言ってしまったけれど…… (そういえばこの人、同性愛者だったっけ?) ということは女性と付き合ったことはない──ということになるのではないか。 (え……だったら別に女の素面なんて何とも思わない?)
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