flavorsour 第三章

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6時半過ぎ、出来上がった朝食を前に彼はわぁわぁ声を上げていた。 「おぉぉー! 今日は何のお祝いの日?」 「そういうんじゃありません」 「え、でも朝からこのメニュー、凄くない?」 「……」 (没頭し過ぎてしまった……) モヤモヤな気持ちを吹き飛ばすつもりで料理をしていたらいつの間にか作り過ぎてしまった。朝食と銘打つには多過ぎて、確かに彼が言う通り何かのお祝いの席の様だ。 「ハンバーグにエビフライにオムライスに肉じゃが……。なんか男が喜びそうなものばっかりだね」 「別に男性だけがってわけでは──」 「あぁ、伊志嶺くんの好物か」 「!」 (また…!) 不意に頭に(よぎ)った(蓮の好物だから作り慣れていてつい)という思考。それを受けたかのような彼の言葉に固まってしまった。 (まさか……本当に……?) 私の心を読んでいるのだろうか──と思った瞬間 「伊志嶺くんって案外子ども舌だよね。飲み会とか行ってもアルコールそっちのけでハンバーグとかエビフライとか食事メニューばかりに食いついているからさぁ」 「……」 「朝からちょっとボリューム満点なメニューだけど俺も大好きだから全然OK。いただきます」 「……はい」 彼は山盛りのご飯をかき込みながらバクバク食べ始めた。 (なんだ……実際に蓮が好きだって知っていただけか) 彼は私の心を読んだのではなく、実際に見聞きして知っていただけという簡単な理由だった。 (そうだよね。人の心なんて読めない読めない。読めるわけない) ホッと浅く息を吐いた私も彼に倣って食事を始めた。
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