flavorsour 第三章

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(なんだろう、この沸々と湧き上がる身に覚えのない感情は) 今までに経験したことのない気持ちにしばし思い悩んでしまう。 テレビ画面を観るついでに目に入る彼の顔を盗み見ればその訳の分からない感情が一層濃く染み渡る。 彼は相変わらず「美味しい、朝から幸せ」なんて言いながら朝食を摂っている。 (あー……全然分からない) 今のところ何に対して思い悩んでいるのか、そのものが分からない状態で悩むのは止めようと黙々と食事を済ませた。 ほぼ同じくらいに食べ終わった朝食。 「ご馳走様でした。すっごく美味しかった」 「お粗末様です」 「粗末じゃないよ」 「え」 「よく謙遜してそういう人がいるけどさ、そういうの俺はちょっと違うと思うな」 「別に本当に粗末だとは思っていませんし、謙遜していっているわけでもないのですが」 「じゃあなんでお粗末様っていうの」 「……さぁ」 「分からないんだ」 「一種の口癖のようなもので……逆にどういえば正解なのか分かりません」 「俺はにっこり笑ってくれるといいな」 「え」 「『はい』っていいながらにっこり笑顔がもらえたら俺も笑顔を返す」 「……」 「ほら、笑って! ご馳走様、すっごく美味しかったよ」 「……」 彼に言われるまま私は口角を上げた。 「んー……なんかぎこちないけど……まぁいいか。時間もそうないし」 「……」 (何故突然笑顔のダメ出しを) 食事を終えてそういう会話が繰り広げられるとは思わなかった。
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