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家族団らんを知らないと言った彼が蓮のためとはいえ好きでもない女と結婚を前提とした付き合いや同居を決めた裏にはそれなりの決意があったと思う。
そしてそこには分かり易い魂胆も当然ある。
(う~ん……)
不覚にも私はそんな謎の多い彼に居心地のいい生活を与えたいと思ってしまっている。彼の悪巧みを分かっていながらもそれにかこつけて私にとっても何かが変わるきっかけが起こる展開を待っている気がした。
その変化とは勿論──……
(………)
そうして考えて結局はため息が出る。
彼は同性愛者だ。彼が好きなのは蓮なのだ。例え私が彼のことをそういう対象で見てしまったり気持ちを抱いてしまったら……
(傷つくのは目に見えているのに)
そんな様々な葛藤渦巻く中での彼との生活が早く終わればいいと思う反面、そうじゃなければいいなと思ってしまう私はやっぱり心の中で盛大にため息をつくしかなかった。
いつも通りの業務をこなしている間は彼のことを完全に忘れていられた。不意に集中力が切れると共に聞こえたのは昼休憩を報せるチャイムだった。
(もうお昼か)
今日はいつもよりも早く時間が過ぎたように思える。思ったより仕事もはかどり清々しい気持ちでいた。
(さてと、お弁当食べようかな)
いつもの場所で昼食を摂るためにランチボックスを手に席を立った。
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