flavorsour 第三章

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「どうかしましたか」 「え……あ、いえ」 ぼんやりと考え込んでいた姿が気になったのか、しゃがんでいた嶋さんが立ち上がった。 「あ、もしかして食事をする場所近くで土を弄っているのが気に入らないとか」 「そんなこと思っていません。ただ嶋さんっておいくつなのかと気になって」 「え」 「──あ」 誤解を打ち消すために慌てて考えていたことを口に出してしまった。 (あぁー、失礼なことを訊いてしまった) なんて焦りを感じていると、嶋さんは先刻見せた笑顔を私に向けながら訊いた。 「……気になりますか?」 「え」 「僕のことが──気になりますか」 「……」 (しまった……これは拙いパターン、かも) 変に興味ありげな言葉を発したことによってあらぬ誤解を抱く男性が過去にいた。 『そんなことを訊くってことは君、俺に興味があるの?』というような言葉の先にはありがたくもない好意を持たれて散々付きまとわれたという嫌な記憶。 (嶋さんに誤解されないうちに本心を言った方が──) そんなことを考えていると嶋さんははめていた軍手を外しながら「まぁ、よく訊かれますよ、年齢は」と続けた。 「まだ32なのにどうして庶務課にいるのかって、割と興味本位で訊かれます」 「あの、決して興味本位とかではなくて」 「分かっています。伊志嶺さんは他の人とは違いますから下卑(げび)た気持ちから訊いたのではないということは」 「……」 (下卑たって……) そこまで大袈裟に回収されるような気持ちから訊いたわけではないと思いつつも、やっぱり失礼なことを訊いてしまったと反省した。
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