flavorsour 第三章

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「それでは僕はこれで。楽しいランチタイムを過ごしてください」 「あ、はい。ありがとうございます」 嶋さんは笑顔を残したまま屋上から去って行った。 「……はぁ」 思わず安堵のため息が出た私は気を取り直しベンチに腰掛け携帯を確認した。 画面に表示されていたのは榛名さんからのメールだった。 【お弁当ありがとう! すっごく美味しかったよ】 (早っ、もう食べたの?!) 彼の会社の昼休憩が何時からなのかは分からないけれど、恐らく私の処と同じく12時からだろう。 普通はそうだ。その認識から考えると彼はものの10分足らずでお弁当を食べたことになる。 (そんなに早食いだったかしら) 一緒に食事をした時を思い出してみるけれど別段驚くほどの早食いではなかった筈。 (……まぁ、いっか) いくら考えたところで彼の事情が分かるはずもないのだから。ただ今はタイミングよくメールを送ってくれたことに感謝しつつ、簡単に返信して私もお弁当を食べ始めた。 いつものように眺めるのは開けた空や花壇の花、そして点在するベンチで同じく昼食を摂る人たちの様子。 その大半は男女のペア。恐らく交際しているふたりだろう。仲睦まじいその姿を見てはほんの少し羨ましいという気持ちが湧く。 社内恋愛が禁止されていない会社だからこういった光景は否応無しに目に入ってしまう。 (……恋愛ってどうやって始まるんだっけ) 今更ながらそんな不毛なことを考えてしまう。恋愛経験が全くなかったわけでもないのに。 ただ──長続きする、お互いを思いやれる恋愛というのをしたことはなかった。
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