flavorsour 第三章

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「どうしたの、なんか挙動不審だけど」 「!」 彼に『挙動不審』と言われカチンと来た。一体誰のせいで挙動不審になったのか、と。 「榛名さん、大きな声で私の名前を呼ばないでください」 「なんで」 「なんでって、万が一会社の人に見られたら厄介ですから」 「……」 「なんでそこで黙るんですか」 「え、いや、見られたら厄介なのかと思って」 「厄介ですよ」 そう、恐らく大変厄介な目に遭うだろう。今までプライベート──特に恋愛に関しての話をしてこなかった私に名前を呼ばれる待ち合わせ相手がいたとなるとまるでゴシップネタのような噂になることは間違いないだろう。 それこそ真偽が定かではない憶測で噂されることが目に見えて想像出来てしまう。 「そんなに構えなくてもいいじゃない。見られたら開き直って『彼氏です』って言っとけばいいよ」 「彼氏じゃないですけれど」 「だからそこは嘘でもいいじゃない」 「……」 あっけらかんとそんなことを言う彼に若干の怒りを覚えた。 (彼氏だっていったら根掘り葉掘り聞かれるじゃない!) そういう話題に限って私は上手くかわすことが出来ない。他のことと同じように器用にかわせればいいとは思うけれどなにせ経験値が圧倒的に低い。 適当なことを言って何処から綻びが発生するか分からないから余計に怖い。 (本当は……本当に彼氏だって言えたら……) それほど楽なことはないけれど、それは彼相手にはあり得ないのだ。
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