flavorsour 第三章

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「付け合わせはキャベツの千切りだよね。本当はキャベツ丸ごと買って直に切るのがいいんだけど今ってキャベツ高いよね。ここは多少妥協してあらかじめ刻まれているパックのキャベツ買った方がいいかな」 隣で饒舌にキャベツ談を語っている彼。 (一緒に住んでいるのが彼……というのが問題かな) 誰かと一緒に住むならお互い好き合った者同士が最適だ。例えそれが同居でも同棲でも。 なのに今、私が一緒に住んでいるのは思惑とか策略とかそういった腹黒いものをいっぱい抱えていそうな同性愛者。 いや、同性愛者が悪いとは言っていない。私にはそういう偏見はない。好きになるのに、愛することに性別は不問だ。 しかし相手が既婚者であるという時点でアウトだ。 (本当、どうにかしなくっちゃ) 隣の彼がどのような形で私に取り入ろうとするのか、そんな緊張感が常にまとわりつく同居こそが頭の痛い唯一の問題点だった。 「蘭ちゃん?」 「!」 私があれこれ考えているのを不審に思ったのか彼が私の顔を覗き込んだ。 「どうかした? なんか眉間に皺が寄っているけど」 「っ、キャベツは丸ごと買わなきゃでしょう!」 「へ?」 「多少値が張っても千切りの他にもいくつか料理が作れます。単価計算をしたら絶対玉で買うべきです! 玉の方がお得です!」 「……」 「──あ」 思わず『玉、玉』と力説してしまい、そんな私をポカンと見つめる彼によってハッと我に返った。 (わ、私は何を熱くなって…!) 表向きの私には相応しくないような言葉使いをしてしまい恥ずかしさを覚えた。
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