flavorsour 第三章

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やらかしてしまった──そう思い焦っていると 「なるほど! さすが蘭ちゃん」 「……え」 「確かにそういう風に考えたらお得なのは玉だね。キャベツ料理って案外あるもんなぁ」 「……」 「ロールキャベツは絶対外せないし、ポトフや意外と浅漬けにするのも有りだよ」 「……はい」 「よし、決めた。玉で買おう」 「……」 もう何度目になるのか分からない彼の『追求しない返答』にまた救われた。 ほんの少しだけ焦りを感じたことがあったけれど無事に夕食の買い物を済ませて帰宅した。 玄関ドアを開けながら「ただいまー」と言った彼に思わず「おかえりなさい」と言ってしまった。 一瞬、彼が口を開けて私を見た。あえて擬音をつけるならば『ぽかん』という表現になる。そしてすぐに破顔して笑った。 「あはははっ、そこは蘭ちゃんも『ただいま』でしょうが」 「そ、そうですけどつい条件反射で──」 「ん、まぁ……その返し、すっごく嬉しいけどさ」 「え」 彼が何かを小さく呟いた。けれどあまりにも小さな呟きで、私はそれを明確に聞き取れなかった。今、何を言ったのかと訊き返したかったけれど 「ほら、蘭ちゃんも言ってみて」 「何をですか」 「『ただいま』って」 「……」 「ほらほら」 「……ただいま」 「おかえり」 「!」 いい笑顔を浮かべた彼からそんな返しをされてしまい、それだけで先刻の聞き逃した言葉が何かなんて訊くのが憚れてしまった。 (まぁ、いいか) またもや振り回されてしまったと思いながら彼に続いて室内へと進んだ。
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