flavorsour 第三章

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(よしよし、よく漬かっているわね) 実家から持って来た糠床をかき混ぜながら頃合いの胡瓜と茄子を取り出した。 「蘭ちゃんの糠漬け、美味しいよね」 生姜焼き用の生姜をすりながら話しかけて来た彼の言葉に少しだけ気が緩んだ。 「糠漬け、好きですか?」 「好き。特に胡瓜が好き」 「そうですか」 伊志嶺家に代々伝わる特製糠床で漬けた糠漬けは私たち家族の好物のひとつだった。それを彼も美味しい、好きと言ってくれたことが嬉しかった。 (多分、食の好みとか合うんだろうな) 今のところ彼と食事を共にして不快に思ったことがない。一緒に住む上でそれはかなり重要なポイントだと思う。 (本当、恋愛の嗜好と容姿以外ではかなりな優良物件なのになぁ……) 密かにそんなことを思いこっそりと小さくため息をつくと「ふはっ」と彼が含み笑いをした。 (え……なんで今、笑ったの?) 彼をジッと見るけれど別に笑えるようなところはない。彼は黙々とお肉を焼いていてフライパンから目を離している様子はなかった。 (あー……何に笑ったのか訊きたいけれど……) それだと私がやたらと彼を気にしている風に取られるかもしれないということからあえてその含み笑いはスルーしたのだった。
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