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「花咲里──蓮の奥さんと話していると普段から浮かれていると言っていたから心配になって」
「あぁ、そこら辺は大丈夫だよ。彼はちゃんと仕事とプライベートを使い分けているから」
「……」
「まぁ、昼休憩の時は相変わらず奥さんの手作り弁当を前にニヤケているけど、それぐらいは可愛いもんだよねぇ」
「っ、可愛い?!」
(それ、どういう意味で言ったの?!)
彼のひと言にやけに食いついてしまう。
「ん、どうしたの」
「あ……いえ、蓮に対して可愛いって単語がやけに……不似合いかな、と」
「なんで? 可愛いじゃない、彼」
「!」
「まるでテディベアみたいだよねぇ。きっと抱きついたら癒されるよ」
「抱きつく?!」
(な、なに言ってんの!)
彼のとんでもない発言に対して経験したことがない動悸を感じてしまった。
(やっぱりまだ好き、なんだわ……)
彼の話しぶりから安易に想像がついた。彼はまだ蓮のことが好きなのだ、と。
一旦蓮の話をし出せば彼がこうなるだろうと心の奥底では薄々感じていた。
(でも……もしかしたらって思うじゃない)
これまでの彼との生活の中で少しだけかもしれないけれど彼に近づけたような気がしていた。
もしかしたら彼は私のことを──なんて淡い期待を抱いてしまうような彼とのやりとりはすっかり私を油断させた。
(そうか……まだまだ、なんだ)
少しがっかりした気持ちが私を項垂れさせた。
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