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『気持ち悪い!』
「!」
突然遠くから彼女らしかぬ言葉が聞こえ、一気に冷水を浴びたかのように背筋が凍った。
『嫌ぁぁぁぁー! 無理! 無理ぃぃぃ~~!!』
「……?」
何を騒いでいるのだろうと思い、座っていたソファから腰を上げ声がした方へと向かった。
すると彼女が洗面所の前で体育座りをしていた。顔を組んだ足の間に挟んで項垂れているその小さな姿は実に可愛らしかった。
「蘭ちゃん、どうしたの」
「っ、は、榛名さん……」
顔を上げた彼女の目には薄っすら涙が浮かんでいるように見えた。
(う゛っ!)
そのどこか扇情的な表情にグッと来るものがあったがなるべく冷静さを装い目線が合うようにしゃがんだ。
「何があったの」
「……」
そう優しく問うと彼女は少し震えている手を洗面所の中へと向けた。人差し指が指し示す方には見慣れた箱が置いてあった。
(あれって確か……)
昨日交わされた彼女との会話とあの箱がリンクして彼女が怖がっている理由が分かってしまい思わず笑みが零れた。
「な、何を笑っているんですか! 笑い事じゃないですよね?!」
笑ってしまった俺に対して彼女がもの凄い剣幕で捲し立てる。
「あぁ、ごめんね。もしかしてかかっていた?」
「……いました。しかも……二匹」
「そうか。じゃああれは俺が始末しておくよ」
「し、始末って……キッチンのごみ箱に捨てたりしませんよね?!」
「しないよ。流石の俺もそれは嫌だ」
「……ですよね」
俺の言葉に安堵したのか、彼女は体育座りを解いてふらりと立ち上がった。
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