flavorsour 第四章

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それほどまでに今まで付き合って来た女性は裏と表の差が激しかったのだと改めて思い知った。 いや、というかそれが普通なのだ。言葉にしている建前と心の中の本音が違うことが本来は普通なのだろう。こと、相手に合わせたり気に入られようと思えば尚更。 (彼女や伊志嶺くんが稀なんだろうな) 裏表のない人間──そういったものに実際に対峙したのは伊志嶺兄妹が初めてだった。 「二匹いたってことは……」 「っ!」 彼女はそこから先が訊きたくないとばかりに両耳を手で押さえた。 「だから姿を現さないように忌避剤タイプのものを買って来るよ」 「あ……な、なるほど」 皆までいわなかった俺の言葉に安心したのか、彼女は少し表情を和らげた。するとソファから立ち上がって「私も行きます」と告げた。 「大丈夫だよ。ひとりで行って来るから」 「いえ、ついでにストックの無くなりそうな日用品を買いたいので」 「何か足りなかった?」 「トイレットペーパーやシャンプーやハンドソープなど、詰め替え用のものが残り少ないんです」 「そうだった? 気がつかなかった」 彼女の言葉に素直に驚いた。そうか、いつもあるものが途切れることなくあるということはそれに気が付いて買い足している人がいるということ。 (ひとりの時は無くなったら自分で買っていたけど) 当たり前に出来ていたことがいざ商品が無くならないとそういうことに気が付かず疎かになってしまうのだと知った。
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