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(いや、寧ろ居心地がよ過ぎて……)
「あー、俺も中華って気分」
「──え」
「……あ」
つい心の中の彼女の言葉と会話してしまった。彼女の喋り言葉と本音がリンクしていると時々起こる弊害ともいえる。
「榛名さん、今」
「あ……えっと……! ほら、あそこのお店!」
「え」
苦し紛れに目に入った少し前にある中華料理店のウインドウに張られていたポスターを指差した。
「あそこにほら【今日は何食べる? 迷った時には是非こちらの中華をどうぞ!】って書いてある」
「……あぁ、本当ですね」
「ね! 中華、いいよね。あ、そうだ、今日はこのお店に食べに行かない?」
「いえ、私も今日は中華という気分だったので作りますよ」
「え、本当? いいの?」
「いいも何も──って……榛名さん、なんだかおかしくないですか?」
「ん? 俺がおかしいのはいつものことじゃん」
「……」
「……」
「ですね」
「否定しないの?!」
「ふふっ」
「!」
なんとか誤魔化しはしたけれどその妙な夫婦漫才のような会話が意外なほど俺の胸を締め付けた。
(この胸の締め付けはなんだろう)
身に覚えのない感覚。だけど知っているような気がする。
ジクジクと疼くように痛痒い。
しばらく考えていて辿り着いた答えは──……
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