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今まで見たことがなかった彼女の一面。同じ会社にそんな顔をして話をするような人物がいたことにジリッと胸が焦がれた。
(いやいや、別にいるだろう、そういう人だって)
にこやかに鉢植えに水を遣っている彼女から聞こえる心の声には色恋沙汰を窺わせるような要素は全くなかった。ただ──
シマサンッテ スコシダケ レンニ ニテイルノカナ
という気持ちが俺を不安にさせた。
(伊志嶺くんに似ているってどういう風に)
彼女の心の声だけではその全貌は分からない。いい人なのは分かったが、その思いがいずれ恋愛に発展するきっかけになりはしないだろうかと不安になった。
「蘭ちゃんって花が好きなの?」
さり気なく『しまさん』というキーワードから思考を外させようと話題を振ってみる。
「え? 女性なら大抵好きなんじゃないですか?」
「あー……まぁそうなんだろうけど……ちなみにどんな花が好きなの?」
「花ならなんでも好きですよ」
「一番は? やっぱり自分の名前と同じ蘭かな?」
「それは安直過ぎます」
「そうかな。俺は好きだけどな、蘭」
「……」
ハナ、ヨネ? ランノハナガ スキダッテダケデ ベツニ ワタシノコトハ
(……よしよし)
彼女の意識が俺の方に向いたことに安堵する。
「教えてよ、蘭ちゃんの一番好きな花」
「……蘭や百合のような華やかな花も好きですけど」
「……」
(百合?)
『ゆり』と訊いて何か引っかかると思ったら、そういえば彼女の母親の名前は漢字は違うが【由梨子】だったなと思い出した。
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