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「どうしたの、ボーッとして」
「あ……いえ、別に」
「俺の作ったハンバーグ、美味しくない?」
「そんなことはないです。とっても美味しいですよ」
「そっか。なんかボーッとしているから美味しくないのかと思った」
「ごめんなさい、違うんです」
「……」
そこから俺はあえて言葉を発するのを止めた。意味ありげに彼女をジッと見つめているとバツが悪くなったのか彼女は俺から視線を外した。それでも俺は彼女の顔を見続けた。
「な、なんでそんなに見るんですかっ」
やがて痺れを切らした彼女が少し焦った様に話しかけた。
「いや、だって蘭ちゃん、ちっとも美味しそうに食べないから」
「それは……ごめんなさいって謝りました。とても美味しいです」
「ふぅん、美味しいんだ。だけどボーッとしちゃうんだ」
「……」
「せっかく頑張って作ったのになぁ。美味しいなら美味しいなりに楽しい雰囲気で食べたくない?」
「……ですね」
頭のいい彼女ならここまで言えば俺の気持ちを察すると思った。気配り屋で心優しい彼女の性格を利用して俺はあえて自白するように仕向けた。
そこで極めつけのひと言。
「楽しい雰囲気に出来ない何かがあった?」
ついでに心底心配している表情を張り付けて問うと彼女はようやく重い口を開いた。
「……実は……困っていることがあって」
「うん」
「榛名さんには何も関係がないことなんですが……どうしたらいいのか分からなくて」
「うん」
「……相談に……乗ってもらえますか?」
「勿論」
(よしよし、成功成功)
そうして俺は既に知ってしまっている彼女の悩みを大っぴらに共有することになった。
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