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「俺は彼女の兄が勤めている会社の者です」
「お兄さん、の?」
「彼女に兄がいること、知りませんでしたか?」
「……いえ、あの……はい」
「……」
(家のこと、家族関係のことは話していなかったのか)
それは実に彼女らしい。さほど親しくない相手には個人情報に繋がる話はしない。少しの隙でも見せればどうなるのか、それが概ね分かっている故のことだろう。
そんな用心深い彼女だがこの嶋相手には少しでも隙を与えてしまったのかと思うとため息が出そうだった。
(まぁ……確かに)
どことなく伊志嶺くんに似ていなくはないのかもしれない。とはいえそれは雰囲気だけのものだし、よく見れば全く似ていない。
今ここで多少なりとも彼女の個人情報を話してしまったことは不味いかと思ったが、それを話さなくては先へ進めないから仕方がないと心の中で彼女に手を合わせて謝った。
案の定嶋は俺の話に乗って来た。
「あの……彼女のお兄さんの会社の人が僕に何を……」
「伊志嶺くんは俺の後輩社員なんです。指導係という縁で親しくなってその流れで妹の蘭さんとも交流があります」
「っ!」
明らかに動揺し始めた嶋をジッと見つめながらじわじわと追い詰めて行く。
今、嶋に話している彼女と俺の関係は嘘偽りのない本当のことなので俺にとっては何の罪悪感もない。
(当初は彼女は俺の婚約者だと言って威嚇しようと思っていたが)
嶋と面と向かって話してみて考えが変わった。彼女に対することで恋愛臭を漂わせるような話をしては駄目だと。
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