flavorsour 第四章

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恐らく嶋にとって彼女はその見た目通り身も心も清らかな女性でなくてはいけないのだろう。 (恋愛に臆病なオタク系に多いんだよな、そういう偶像崇拝的な妄想) 嶋もそういった類の人間だと踏んで話を進めた。 「俺は伊志嶺くんから相談を受けたんです。妹が悩んでいると」 「……」 「どうやら蘭さんが付きまといの被害に遭っているらしいと言うんですよ」 「っ、僕は付きまとってなんかいない! ただ彼女とはいつも偶然に会って」 「俺、あなたがその付きまとっている本人だって言いましたか?」 「!!」 (あーあ、墓穴掘りやがって) 頭のいいずる賢い奴ならもっと上手く誤魔化しただろう。『付きまとい? そんなことがあったんですか?』とかなんとか。 言い逃れしようと思えばいくらでも逃れられる流れの会話だった。 (本当、もの凄くいい言い方をすれば純朴っていうのかな、こういうの) 唐突にこの嶋という人間のことに少しずつ興味を抱き始めて来た。でもだからといって追及の手を緩める気はない。 「蘭さんが付きまといの被害に遭っているのをどうにかして欲しいということで俺は頼まれて蘭さんが利用しているバス停に張り込んでいました」 「……」 「其処であなたを見かけました。先ほども訊きましたがどうしてあなたは蘭さんの後を付けていたんですか?」 「……」 「あなたの自宅もあのバス停周辺にあるんですか?」 「……」 「蘭さんとたまたま行動範囲が同じで偶然見かけた彼女に声をかけようとして後を付けた。ただそれだけのことだったということですか?」 「……」 俺の質問に嶋は答えずにまた顔を俯かせた。
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