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「榛名さん?」
「っ、ん?!」
「どうしました? なんだかボーッとして」
「あー……いや、何でもないよ」
俺の様子を気にして声をかけてくれた彼女に対して少しだけ気まずい気持ちが湧いた。
(結局俺は彼女を騙して一緒に暮らしているようなものだもんな)
よくよく考えたら状況ややり方は違えど、俺がやっていることは嶋と同じようなことなのかもしれないと思うと途端に戸惑ってしまう。
そんなモヤッとした気持ちをなんとか消化しようとしていると彼女からドキッとするような言葉が出た。
「何か隠し事、していませんか」
「──え」
ジッと見つめられたその真っ直ぐな瞳に明らかに動揺した。
(何、隠し事って……まさか俺が心の声を聞けるっていうことがバレた?!)
彼女に対して隠し事をしているとしたら思い当たるのはそれだ。内心(なんでこのタイミングでそんな確信めいたことを?!)と焦っていると彼女は薄く息を吐いた。
「やっぱり嶋さんに何か言われたんですか」
「……へ」
「私には無事に解決したという報告をしていますけれど、本当は何かひと悶着めいたことがあったんじゃないですか?」
「……」
「もしかして……一緒に住んでいることとか言ってしまって……」
「っ、いや、それは言ってない!」
彼女の言葉と心の声が同時進行で聞こえて来て慌てて弁明した。
「心配してくれるのは嬉しいけど本当、何もなかった。極めて穏便な話し合いの元、事は進んで解決したよ」
「でも榛名さん、その割には浮かない顔をしているから……私には言えない何かがあったのかと」
「……」
(あぁ、そういう意味の隠し事、ね)
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