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俺が恐れていた方の隠し事ではなくホッと安堵した。それと同時に俺のちょっとした表情や仕草で彼女が敏感に何かを窺っているのかが分かって改めて気を引き締めた。
「嶋さんには俺は蘭ちゃんのお兄さんの同僚ってことで名乗った」
「そうなんですか」
「あ、ひょっとしてお兄さんがいることは隠しておきたかったかな」
「いえ、それぐらいのことは全然大丈夫です」
「そっか、よかった」
誤魔化すためとはいえ勝手に家族のことを話したことが気がかりだったが彼女は俺が嶋と話し合った内容を知ると少しだけ表情を和らげた。
勿論、最後の方の極めつけのひと言は伏せたままにしていたが。
「随分気を遣ってもらったんですね。ありがとうございます」
「いや……なんかさ、俺からいうのも変かもしれないけど嶋さん、本当に悪気はなかったみたい」
「……はい」
「これからは自分から蘭ちゃんに接触するのも控えるからっていっていたから大丈夫だよ」
「……はい」
時折嘘を混ぜ込めて伝えた言葉に彼女はようやく表情を和らげた。
(時には必要な嘘もある)
そう何度も心の中で唱えながら嶋との一件の報告を終えた。
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