flavorsour 第五章

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実際の榛名さんは頼もしい、頼れる男性だ。日常の家事の面においては文句のつけようがないほどに協力的だし、苦手なあの黒いヤツの対処も率先してやってくれるし、それに…… (……) 不意に視線を窓際へとやる。目に入る風景はつい数日前まで置かれていた鉢植えがあった場所。だけど今はぽっかりと空いた空間になっている。 ブーゲンビリアの花が植えられていた鉢はつい先日、嶋さんに言われて回収されてしまっていた。 榛名さんが嶋さんと話し合った日から少し経って、久しぶりに社屋の屋上で嶋さんと会った。私と目が合った瞬間、嶋さんはとても気まずそうに目を逸らしたけれどその理由を榛名さんから訊いて知っていた私は声をかけずにはいられなかった。 『こんにちは、嶋さん』 『あ……こ、こんにちは』 『あの、少しお時間、ありますか?』 『え』 『先日、私の兄の会社の人が嶋さんに会いに行ったと思うんですけど』 『……』 『その件に関して補足……というか、謝りたいことがあって』 『……え』 私の言葉に嶋さんは少し驚き、そして躊躇いつつも私の誘いを受けてくれた。 榛名さんから訊いた話を嶋さんに確認しつつ、その上で誤解させるような真似をして申し訳なかったと頭を下げた。 すると嶋さんは酷く驚いたように『伊志嶺さんが謝ることなんて何ひとつありません!』と声高に叫んだ。その声があまりにも大きくて私は勿論、少し離れた処にいた数名の社員も驚いていた。
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