flavorsour 第五章

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私はなるべく冷静さを保ちつつ、今度こそ誤解のないようにはっきりと嶋さんに告げた。 嶋さんに対して恋愛感情はなく、単に顔見知りの会社の人という枠からはみ出していないということを。 そしてもうひとつ──まだ誰にも話していなかったことをあえて嶋さんに打ち明けた。 私からの告白を訊いて嶋さんは明らかに表情を曇らせたけれど、それによって榛名さんが嶋さんの元にやって来た理由が明確になったのか小さく『そういうことでしたか』と納得したように呟いた。 私の本当の気持ちを知った嶋さんは深く頭を下げた。 『自分が勝手な思い込みをしたせいで伊志嶺さんには迷惑をかけました。本当にすみませんでした』そう謝罪してくれたので私はそれで全てを水に流そうと思えた。 そうして話を終えて屋上から去ろうとすると不意に嶋さんが私を呼び止めた。まだ何かあったのだろうかと思っていると嶋さんが思いがけないことを言った。 『あの、伊志嶺さんに差し上げた鉢植えを返していただきたいんですが』 『え……鉢植えってブーゲンビリアの花が植えられている鉢ですか?』 『そうです』 『……もしかして気を悪くしてしまいましたか』 あげた物を返して欲しいという心理はそういうことなのかと思ってしまった。
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