flavorsour 第一章

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そんな完璧ともいえる私の愛想笑いを今まで愛想笑いとして捉えられたことなんてなかった。 人々は私の愛想笑いを純粋な微笑みや笑顔として認識し、それに対して褒め称える言葉が付け加えられた。 ──なのに 「ねぇ」 「はい」 「顔、筋肉痛になったことある?」 「……は?」 招待客が途絶えた時、不意に彼からそんなことを言われた。その言葉の意味が解らず少し首を傾げると「君って本当に笑ったらどんな顔になるの?」と続いた時、内心ドキッとした。 (何を言っているの、この人) 此処に来てからずっと偽りの笑顔を振りまいていた私に対してそんなことを言った彼に一瞬本音が出そうになった。──が、そこは長年培って来た技が発動しなんでもないことのように言い返した。 「どんな顔といわれてもこんな顔にしかなりませんけれど」とにっこり笑って見せた。勿論これも(てい)のいい愛想笑い。 でも私のこの愛想笑いをそれだと認識した他人は今までに誰もいない。 だって私にとってこの愛想笑いが本当の笑い──なのだから。
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