flavorsour 第一章

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「それで其処の事務員の女性が俺たちの前にお茶を出したんだけど──」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……お茶を出したんだけど、何?」 「あ、訊いていた?」 「っ、訊いていますよ、ちゃんと」 「そっか」 「~~~」 悔しいことに榛名さんが話す蓮のエピソードが面白くてついつい彼の後をついて行ってしまっている。 そして気が付けば私と榛名さん、ふたり揃ってバスに乗車していた。 (えぇぇぇ──なんで?!) ほんの数十分前までは駅のベンチにいたはずが何故突然バスの車内に?! ──そんな疑問が頭の中いっぱいに湧き出ていたけれど…… 「そんな状況だったから伊志嶺くん、機転を利かせて持っていた別のA4用紙に被せて誤魔化していたんだけどそんなの隠し通せる訳ないの」 「……」 「でもそこで反感を買わないのが彼の日頃の行いの良さなんだよなぁ」 「……」 (なんだか……不思議) 榛名さんが話す会社での蓮の話はどれも面白くてついつい引き込まれてしまう。 しかも面白おかしく話しているのにそこに蓮に対する嫌味や貶しを感じることがなく訊いていてとても心地よかった。 (本当になんなの、この人) 結局自宅近くのバス停に着くまで榛名さんは蓮の話を続け、私はそれを黙って訊いてしまっていたのだった。
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